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 総  論

14.日本語ができる家族・友人・会社の通訳の注意点 

 

(1)子どもの通訳は極力回避 

 

 日本語が十分でない外国人患者さんが医療機関にかかるときは、自分の身内で日本語会話ができる人を同伴していくのが普通のようです。中でも多いのが子どもの同伴です。子どもは言語の習得が早いので、親から何かと頼られるのでしょう。ただし、医療機関における子どもの通訳は、以下の理由から極力回避したいものです。状況によって子どもに通訳をお願いせざるを得ない場合であっても、名前と住所、年齢などを聞く程度にとどめるか、簡単な診療行為でかつ高校生以上に限定するといった「枠」をはめておく必要があります。

 

 a. 子どもは身体器官や医療用語の知識が不足していること

 日常会話はよどみない子どもであっても、胃・肝臓・腎臓・膵臓など形状や位置、機能などの知識、一般的な病気の知識、薬の用法の知識があるでしょうか。それを母語と日本語で言えるでしょうか。肝臓と腎臓を取り違えて通訳する可能性があるのです。誤った通訳のせいで、仮に親の治療が遅れたとしたら、医療リスクも大きいですし、子どもも心の傷を負ってしまいかねません。日本語がスムーズに出てくるからといって、子どもはおとなと同じ程度の医療知識を持っていると考えてはいけないということでしょう。

 

 b. 子どもが親に病状を伝えることになること

 通訳行為は、医師の言葉を患者に伝える行為でもあります。軽い病気であれば問題ありませんが、重症の可能性がある病気では、子どもが親に「危ないかもしない」ことを伝えることになります。医療機関として子どもの通訳を了承するということは、子どもにメッセンジャーをさせることになるということも認識しておく必要があるでしょう。

 

 c. 日常ストレスの増加につながること

 外国人の子どもや国際結婚で生まれたダブルの子どもは、学校生活などで差別やいじめを経験していたり、勉強についていけなかったり、友だちができなかったりと、日頃からストレスを感じて生活している場合が少なくありません。そうした中で、医療機関へ行くために学校を休まなければならないことや前述の心理的負担を考えると、子どものストレスはさらに増加してしまうでしょう。その意味からも、子どもの通訳には慎重になりたいものです。

 

(2)友人・知人の通訳の問題点 

 

 身内の中で日本語会話ができる人が見つからない場合は、同国人のネットワークなどを使って日本語会話が可能な友人・知人を探すことになります。ただ、友人・知人の通訳も、医療通訳としてのトレーニングを積んでいない場合は、以下のような問題があります。

 

 a. 個人情報の保護が徹底されないおそれがあること

 この場合の通訳は、友人・知人として通訳しますから、業務上の倫理基準として守秘義務があるのではなく、通訳者は患者さんとの信頼関係が損なわれるかどうかを判断基準として病気のことを第三者に漏らすかどうか考えます。医療機関としては、患者さんが連れてきた通訳者だから、通訳する過程で知り得たことが通訳者から外部にもれたとしても責任を問われることはありません。ただ、結果として、患者さんと友人・知人、つまり頼む側と頼まれる側の力関係を考えると、他人に知られたくないことが知れ渡っても、我慢するしかない状況に加担していることになるのかもしれません。

 

 b. 医療知識と通訳技術の不足

 医療通訳のトレーニングを受けていない友人・知人の場合は、基本的な身体器官の知識や一般的な病気に関する知識、薬の用法に関する知識など医療に関わる知識が不足していることが懸念されます。また、通訳技術面でも医療通訳に必要な「何も足さない、何も引かない」という原則を知らない可能性があります。たとえば、外国人患者さんが1分間症状を訴えても、友人・知人は「昨日からおなかが痛いと言っています」の1センテンスだけで済ませてしまうことがあります。このほか、メモの取り方や辞書の活用法なども未熟であれば、1錠を2錠と間違えたり、胃の内視鏡を大腸の内視鏡と間違えて訳したりする可能性があります。

 

 c. 何度も繰り返し依頼できないこと

 友人・知人には、おそらく本来の仕事があります。日本語が十分できれば、職に就いている可能性が高いでしょう。そうした中で仕事を休んで患者さんに同伴するのは、かなり無理をしてのことだと思われます。そうであれば、そうそう何回も患者さんに同伴するのは難しいところです。医療従事者側が「次回も同伴できますね」と確認しても、ただ笑顔でうなずくだけか、「わかりません」と答えるのが精一杯かもしれません。

 

(3)会社の通訳の問題点 

 

 外国人労働者を抱える派遣会社や外国人実習生を多く受け入れている企業では、専属の通訳者がいる場合があります。外国人の生活全般にわたって様々な場所に通訳者として同伴し、サポートしています。ただ、こうした会社の専属通訳者は以下のような問題があります。

 

 a. 個人情報の保護が徹底されないこと

 患者さんの病気に関する情報は、患者さんの意向にかかわらず、会社組織に伝わっていきます。つまり、通訳業務としてしかるべき部署に社員の健康問題を報告するだけでなく、上司や同僚にも知れ渡っていくことになるわけです。また、場合によっては通訳者や会社同僚から外部にもれていく可能性も否めません。

 また、プライバシーの尊重という意味からは、日頃から顔見知りである会社専属通訳者に、診察の際に身体を見られたり、検査を受ける様子を見られたりするのは抵抗感を覚えるという患者さんもいるようです。

 

 b. 会社との利害関係の存在

 患者さんの病気のことが専属通訳者によって会社に報告されると、どうなるでしょうか。会社としては社員の健康問題は人事を考える上で重要情報ですが、社員にとっても雇用継続や昇進に大きな影響を与える重大事項といえます。病気によっては、会社側が正しい医療知識に基づかずに自分で予後を想像し、社員の処遇を変更してしまうかもしれません。そのために解雇されてしまうようなことがあれば、患者さんの不利益はとても大きなものになってしまいます。

 特に、重い病気や長引く病気の場合では、医療機関としても告知や治療方針の説明の際に患者さんに「会社専属の通訳者による通訳で問題ないかどうか」を確認する必要があります。

 

 c. 医療知識と通訳技術の不足

 子どもや友人・知人の通訳と同様、会社の専属通訳者も医療知識と通訳技術が不足している可能性があります。医療知識の質問をしてみたり、「何も引かない、何も足さない」正確な通訳を行っているかなど会話の長さやメモ取りの様子を注意深く観察するとよいでしょう。