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 総  論

19.不法滞在者の状況と対応方法 

 

(1)不法滞在とは 

 

 不法滞在とは、出入国管理及び難民認定法に基づく国外に強制的に退去させるべき次の5つのケースをいいます。

 ・不法残留  許可された在留期間を超えて滞在している場合、オーバーステイ(超過滞在)と俗称されるもの

  ・資格外活動 許可を受けずに、与えられた在留資格以外の仕事(職種)に就いている場合

 ・不法入国  パスポートも持たずに、あるいは偽造パスポートで入国した場合

 ・不法上陸  パスポートは有効でも入国審査(上陸許可)を受けずに入国した場合

 ・刑罰法令違反等 刑罰法令に違反して刑事処分を受けた場合

 

 なお、人権団体などは、こうした不法滞在を「非正規滞在」と呼びますが、不法残留から不法上陸までのケースを、それだけでは犯罪者と言うべきではないという視点から「不法」ではなく「非正規」としているものです。

 

(2)不法滞在者は生活苦とストレスをかかえている 

 

 不法滞在者は、中小零細企業の工員や建設労働者、飲食店や風俗営業店の店員や歌手・ダンサーが見受けられます。ただし、その数は、かつての半分以下に減っています。生活状況は、重労働、危険業務、深夜労働、低賃金、非正規雇用が多く、賃金未払いも聞かれます。飲食店で働く女性の場合は、日本人男性との交際で子どもができたり、男性側が養育費を払わなかったりというケースもよくあることのようです。いずれにしても、言葉と文化の異なるところで、慣れない仕事に就き、ストレスと孤独感をかかえながら仕事をし、生活している場合が多いと思われます。

 なお、人身売買の被害者も不法滞在状態ではありますが、現在では扱いが「犯罪者」から「被害者」に変わりました。彼女らは東南アジアの貧しい家庭の出身で、ブローカー組織にいい仕事があるからと言われて連れてこられ、家族の借金などを理由に売春を強要されます。そのため、HIVなどに感染していたり、精神疾患にかかっていたりする場合があります。患者さんとして医療機関を訪れた場合は、「救出」やその後の生活支援を考えて、警察や支援NPOに相談するなどの対応が必要かもしれません。

 

(3)不法滞在者に対応するときの基本姿勢 

 

 不法滞在の患者さんへの対応は、病気やけがに苦しむ一人の人間であるとすることから出発するとよいでしょう。医師法第19条では「応召義務」として「診療に従事する医師は、診察治療の求があつた場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない」と規定しています。基本的には、通常の患者さんと同じ様に対応することです。その上で、上述のような不法滞在者としての生活上の問題を考えることだと思われます。

 

(4)不法滞在者に対応するときの注意点 

 

 a. 健康保険の加入資格

 不法滞在者は国民健康保険に加入できません。会社で入る健康保険の場合は、手続きのときに在留資格を確認しないために加入できます。労災保険は在留資格不問ですが、中小零細企業で働いている場合は、会社が経費節減のために加入させないことがあります。ただ、これは法律違反ですから、労働基準監督署に相談しながら、会社に加入手続きと治療費支払いの負担を求めるとよいでしょう。なお、労働基準監督署は不法滞在者を拘束したり、入国管理局に通報したりすることはありません。

 

 b. 無保険者の場合

 無保険の場合は自費診療になりますので、10割負担の医療機関でかかることが出発点になります。もし自身の医療機関が10割以上の場合は、他の10割で診療する医療機関を探すようアドバイスするしかありませんが、外国人拒否や差別、偏見と受けとられないように丁寧に、できれば母語で理由を説明する必要がありそうです。あるいは、公費負担制度の対象とならないか、行旅病人法の対象とならないか検討することも重要です。

 自費診療でいく場合は、確実なコミュニケーション確保のために医療通訳者を入れること、治療費のおおよその総額を最初に伝えること、安価な方法でどこまで治療するかを患者とよく相談することが求められます。治療費支払いが困難であれば、何回かの分割払いに応じる必要もありそうです。

 

(5)公立病院の通報義務 

 

 国または地方公共団体の職員は、「入管法」により不法滞在者を通報しなければなりません。公立病院(独立行政法人や指定管理者は除く。)についても、医療関係者や職員のうち、常勤・非常勤を問わず公務員であれば、通報義務があります。ただし、この規定の解釈については、国会の法務委員会において法務省人権擁護局長が告発しないことによる社会の不利益と比較考量して「行政目的を阻害することが非常に著しい場合は告発しなくてよい」と答弁しています。つまり、通報すると自身の本来業務(医療機関では医療行為)ができなくなってしまいますから、この場合は通報しなくてよいのです。