あいち医療通訳システム トップページ医療機関等外国人対応マニュアル トップページT診療対応マニュアル 1総論>7.ペルーの医療と文化の違い

 総  論

7.ペルーの医療と文化の違い 


 (1)診療行為と患者の医療に対する考え方の異なる点 

 ペルー人がよい医師と感じるのは技術だけでなく、心を開いて接してくれる医師です。医療技術以前に、「友人を迎えるように接してくれた」という言葉は、よい医師を表現するときによく使います。ですので、たくさんの検査をして「問題ない」とだけ言う医師には戸惑いを感じます。どんな検査をして、どんな数値でどのくらい問題ないのかを知りたいのです。治療が必要な場合も、リスクや注意点、副作用などの説明を受けて、患者自身が病気をきちんと理解し判断したいと思っています。日本の医師に時間がないことは十分理解していますが、自分の意見を聞いてほしいと感じています。質問や説明を求めると嫌がる医師に対しては冷たいと感じますし、一度診察において医師に不信感を抱くと悪化してもその病院に戻らず、別の病院を受診し、治療が遅れてしまうこともあります。

 癌などの重篤な疾患の場合は、帰国して治療もしくは一時帰国の可能性があるため、早めにきちんとしたインフォームドコンセントをする必要があります。中南米は日本から遠方にあるため、帰国のために飛行機に乗っているだけでも1日以上かかります。立ち寄り先によってはトランジットビザを用意しなければいけません。帰国には体力と気力が必要です。一時帰国で母国での生活を整理することもあれば、本国での治療を考えて日本での生活を整理する必要もあります。本国の医師にセカンドオピニオンを仰ぐこともあります。重度になってからの帰国は移送が困難なため、できるだけ時期などを含めて詳細なインフォームドコンセントを必要とします。また、「帰国しての治療」に関しては、医師から勧めると治療を拒否しているように感じるので、伝える際には注意してください。帰国の話をするときは患者への説明の中であくまでも選択肢の一つとしてください。

 一方、医療機関の受診にあたっては、連絡なしのキャンセルがときおり発生します。予約の際にキャンセルについて具体的に案内をすることをおすすめします。キャンセルがどうして困るかについて詳しく説明してください。

 (2)医療事情の異なる点 

 ペルーでは、医療技術や診断能力は、医師によってかなりの差があり、一般的には日本や欧米先進国と比べるとまだ高いとは言えません。また、診療所と病院、都会と地方、公立病院と私立病院の医療レベルに格差があります。

 貧困層を中心とした国民健康保険機構(SIS)があり、これを使うと自己負担がなく無料で医療を受けられます。ただ、SISで治療を受ける場合は、利用施設が限られているため混雑が予想され、その治療も日本の公的医療保険のように一律ではありません。保険を利用する場合は、1か月待ちも当たり前で、それが嫌ならお金を出して私立の病院やクリニックに行きます。

 診療報酬制度のある日本の病院では、基本的には病院による治療費の格差がないので、かぜ程度でも、より大きな病院や大学病院を選ぶ傾向にあります。この場合は、日本の医療システムについて、ていねいに説明する必要があります。

 子宮頸がん検査は広く普及しています。「パパニコラウ検査(Prueba de Papanicolau)」と呼びます。

 薬については、ペルーでも医師の処方箋をもって薬局に買いに行くシステムですが、薬の種類や量は日本と違いますので、帰国して治療する場合は確認が必要です。薬の量については、ほとんどのペルー人が「日本の薬は弱い・効かない」と信じています。自分たちは子どものころから強い薬になじんでおり、自分たちの身体には日本の薬は効かないと漠然と思い込んでいます。そのため勝手に量を増やしたり、逆に飲まずに本国から薬や注射液を取り寄せたり、民間療法に頼ったりします。投薬管理は患者任せにするのではなく、細かくチェックする必要があります。また、点滴や栄養剤の処方を好む傾向にあります。

 また、入院中は一人でさびしいということから、家族や友人たちがたくさん見舞いに来ます。患者にとってはたいへんうれしいものですが、人数が多かったり声が大きかったりして、他の患者さんやまわりに迷惑をかける場合もありますので、その場合は、悪気はありませんので、遠慮せず注意してください。

 予防接種では、DPT(3種混合)やMRRなどは基本的に日本と同じです。Hibワクチンも普及しています。ただ、接種時期が違うものがあります。たとえば、BCGは生後すぐに打ちます。日本では3か月からなので、接種時期が遅いとお母さんが不安に思うことがあります。

 出産については、都市部では病院での出産が一般的ですが、助産師の出産も多くあります。ブラジルと違い都市部の病院での出産でも自然分娩が多く、問題がある時の判断は医師に任せます。日本のように出産初期から厳密にコントロールするという習慣ではないため、比較的のんびりしていて妊娠中期に病院に行くと日本の産科病棟ではすでに分娩の予約が一杯だったということもおきますので、妊娠がわかれば、できるだけ早めに受診することをすすめてください。妊婦さんの体重コントロールもアバウトなので、体重増加が妊婦にもたらすリスクについて、ていねいに説明することをおすすめします。

 (3)よく見られる病気 

 ペルー本国に比較的多い疾患は、呼吸器疾患、がん、結核、糖尿病、高血圧などです。日本にいるペルー人には、夜勤や過酷な労働を長期間続けている人が多く、30代〜50代男性の心疾患、脳疾患が少なくありません。また、交通ルールの違いから交通事故にあう人も増えています。また、家族がいなかったり、家族と別れてしまった人の中には、異文化でのストレスが溜り、うつ症状を訴える人もいて、心療内科や精神科の受診を希望する人もいます。精神科受診に関しては日本人よりも抵抗は少ないようです。

 (4)文化の違い 

 ペルー人には、全体的に自己決定力が高く、治療に関しても他人任せにせず、積極的に選択したいという人が多い傾向にあると思います。

 話すときには顔の表情が豊かで、ゼスチャーも大げさに見えます。日系人については、大きく分けて、ペルーで日系人コミュニティの中で育った人と、コミュニティとの接触がない中で育った人の2通りあると言われ、両者の文化・習慣は違うといいます。たとえば、時間感覚なども日系コミュニティの中で育った人は日本人の感覚に近いといいます。

 ペルー人は家族をとても大切にし、いつも連絡を取り合い、もちろん、困ったときは助け合います。

 ペルー人の多くはカトリックを信仰していますが、それ以外の宗教を信じている人もいます。宗教によっては一定の医療行為を禁止していたりするので、事前に確認をすることをおすすめします。また、本国では火葬より土葬が一般的ですので、火葬する際は遺族への配慮をお願いします。死期が近づくと宗教者を呼んでお祈りを希望することがあります。

 食習慣は地方によって違います。日系人が住んでいる都市部では、魚も食べますが、一般的には肉や豆、じゃがいもなど高カロリー食が普及しています。肉はキログラム単位のかたまりで購入します。朝食は軽めで、昼食と夕食はしっかり食べます。デザートや飲料も甘いものが多く、肥満も問題になっています。また、風邪や熱のある時、水分・糖分補給を目的としてコカ・コーラを飲む習慣があります。腎臓病や糖尿病患者の栄養指導は、もともとの食習慣が違うため非常に困難です。単に肉を食べるなという指導では、日本人に米を食べるなというくらい本人にとっては過酷なものになりますので、日ごろの食事内容を聞いたうえで、その食習慣をベースに指導をするように心がけるとよいでしょう。

 ペルーの主要言語はスペイン語です。一部の高等教育を受けた人は英語もできますが、一般の人はできません。スペイン語はポルトガル語に似ているため、ポルトガル語を理解する人もいますが、厳密には違いますので注意が必要です。