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 総  論

8.フィリピンの医療と文化の違い 

 

 (1)診療行為と患者の医療に対する考え方の異なる点 

 

 フィリピンでは、労働者の給料が低いのにもかかわらず、非常に物価が高い状況です。その上、食品と薬品は物価の変動が大きく、たとえば、市販のかゆみ止めの軟膏(500グラム)を、数年前は約100ペソ(日本円=約50)で買えたものが、最近は約300ペソ(日本円=約600)と、中間所得者層にとっても高額なものになっています。公的医療保険制度が不十分なフィリピンでは、診療費や薬代は全額自己負担のため、通院・入院の治療費や処方薬代はもちろん、市販の薬を買うことさえ、なかなか難しい状況です。したがって、低所得者層は、信仰がある・なしに関係なく、野草や薬草による民間療法を行う呪術師や祈祷師、または自己判断の治療法(たとえば、下痢のとき、炭酸をぬいたコカ・コーラに少量の片栗粉を混ぜて飲みます。食あたりでは、卵の白身に大さじ山盛りの砂糖を混ぜて飲みます。)に頼るなどの手段を選ばせざるを得ないようです。

 経済的格差の問題以外に、病気への正しい知識・理解の不足が原因で、病気が重症化したり、不適切な処置によって失命したりするケースが多々あります。体調が優れない時は、市販の薬を服用するのが習慣となっていて、よほどの異常がない限り、病院での診療を避けようとする傾向があります。

 

 (2)医療事情の異なる点 

 

 フィリピンの総合病院は、医師たちが病院内に診察用のクリニックを独立開業していて、病院内の検査施設や入院部屋を共有で使用する“オープンシステム”という形態をとっています。また、ほとんどの病院は、クリニックと検査室は別棟にあることが多く、同じ建物内にあっても、各種検査室が異なる階にあったりするため、その病院に通いなれている人でさえ迷ってしまうことがあります。その上、受診や各種検査では、予約がある場合でも待ち時間が1時間以上は当たり前の状態です。支払い方法も独特で、医師、各種検査室がそれぞれ会計場所を設けており、患者は、医師の診察費用は医師へ直接支払い、各検査費用は、検査内容ごとにそれぞれの専用会計場所で一つ一つ支払います。

 各検査は、検査ごとに先に支払いを済ませないと検査を受けることができません。また、入院の場合には、入院前に前払い金を支払わなければ入院手続きもできないシステムになっています。それぞれが独立した医療システムでは、病院、医師、検査所を自分の財布の許容範囲で自由に選ぶことができますが、個人の責任で医療が行われることになるのは、問題と言えるかもしれません。また、信頼できる医師と納得できる検査を求めると、設備が充実している私立病院でしか得られないため、その分費用も高額になります。貧富の差がとても激しいフィリピンでは、経済力によって自由に選択できる医療システムができあがっていると言えるでしょう。

 出産については、中間所得者層と高所得者層は、病院で妊婦検診を行い、分娩も病院です。出産費用が高くつくのですが、その分、妊婦1人に医者が1人付きます。一方、低所得者層は、妊娠健診で通院することはありません。出産も地区の診療所や自宅(産婆さんによる出産介助)になります。そうした診療所は、分娩室がない上、ベッドの数が少ないため、出産を控えている妊婦が1つのベッドを2人で共有して、その状態で出産するのは珍しいことではなく、診療所の床で布を敷いて出産することもあります。出産費用は安いのですが、利用する妊婦も多いため、妊婦数人に、医師が1人という状況です。病院で出産して母子ともに健康な場合の入院期間は、出産後2、3日といったところですが、診療所で出産した場合は、出産後数時間で家に帰されてしまいます。

 昔の言い習わしとして、生まれた赤ちゃんが洗礼(キリスト教徒となる儀式)を受けるまで、魔よけのお守りに、肌着に赤い木や赤い布、腕にブレスレット等を着けたりし、外出の時は、おでこに赤い口紅を少し塗ったりします。

 

 (3)特有の病気 

 

 食生活に起因すると思われますが、塩分濃度が高い味付けに高カロリーかつ栄養価が不十分な食生活の結果として、糖尿病、心臓病、癌や高血圧などの病気になりやすい人が増加しているといいます。

 フィリピンの人々は、「食べる=生きる喜び」というほど、食べることに執着するため、街角には屋台から高級レストランまで、飲食店が数多くあります。不衛生な屋台で売られている食べ物や飲み物は、下痢、A型肝炎、E型肝炎、コレラ、食中毒や腸チフスなどの感染症の原因になっています。

 

 (4)文化の違い 

 

 フィリピン人は陽気で楽天的、親切で知られていますが、内面は、競争心が激しく、負けず嫌いな傾向にあるため、グループ内での結束力が欠ける場合もあるようです。家族や自分のためなら、人一倍努力する精神力も持ち合わせています。

 時間感覚についても注意が必要で、集合時間にいつも遅れて来るといいます。これはフィリピノ・タイムと呼ばれているようですが、10時からの会議では会議が始まるのは11時です。フィリピノ・タイムが定着していて、時間通りに始まらないから遅れていったほうがよいという考えの人もいるようです。

 フィリピン人は、ジョーク(冗談)が大好きで、日常でもジョークを連発して笑って過ごしています。セミナー、会議や授業のときでもジョークは絶えません。

 人から何か誘われて、都合が悪くても、その場でノーと断らないといいます。直前にキャンセルするのか、まったく連絡なしで当日現れない、というのが普通のようです。フィリピンでは、はっきりと断るほうが相手に失礼な行為ととらえられています。また、先のことより現在のことを最優先させる傾向があるため、約束したときはそのつもりだったが、今はその気がなくなったということもよくあるといいます。

 また、フィリピン人は人の話を真剣に聞かない傾向があるようですので、医療機関側としては患者さんに何かを伝える際には、かなりていねいに説明する必要がありそうです。

 フィリピンでは、英語が広く共通語として使われており、アメリカ・イギリスに次いで世界で3番目に英語を話す人口が多い国といいます。フィリピン独自の言語で代表的なものは、タガログ語ですが、もともとは、マニラ周辺で使われていた言語で、テレビ・ラジオなどのメディアを通じて全土に広まったのをきっかけに、フィリピン人同士の会話では、タガログ語がよく使われます。英語も広く用いられているため、タガログ語に英語が混ざったタグリッシュと呼ばれる言語を話す人も多いです。また、各地には、それぞれ独自の言語が100以上も残っています。

 宗教については、アジアで唯一のキリスト教国(カトリック)です。それは、スペインの植民地支配の影響であると考えられます。全人口の90パーセント以上がキリスト教で、その他の宗教は、イスラム教や仏教などは10パーセント以下になっています。日本でも地域のカトリック教会とつながりを持ち、そこで友人・知人のネットワークや同国人コミュニティを育んでいます。

 食文化については、フィリピンでは、先住民族が食べていたシンプルな調理方法の料理から、スペインや中国の食文化を取り入れた料理まで、さまざまな味わいが混在しています。中には、地方独特の料理や日本人になじみやすい料理も数多くあります。中間所得者層と高所得者層は、高価な肉類を使った料理が中心で、低所得者層は、安価な魚介類と野菜類を使った料理がほとんどです。調理方法は、料理のバリエーションが豊富ではないので、「煮る・揚げる」が一般的です。味付けには、魚醤(塩の代用)を利用したものが多く、また、料理の仕上げには味の素が欠かせないといいます。